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大阪高等裁判所 昭和38年(ラ)26号 決定 1963年4月30日

決   定

和歌山市南片原二丁目一四番地

抗告人

寺井逸郎

頭書の事件につき、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

原決定を取り消す。

本件を和歌山地方裁判所に差し戻す。

理由

本件抗告理由は、別紙抗告理由書記載のとおりであつて、これに対する当裁判所の判断は、次のとおりである。

破産債権者の同意による破産廃止においては、債権屈出期間内に屈出をなした総破産債権者の同意のみを要するという見解と債権屈出期間経過後破産法第三五一条第一項に定める異議申立期間経過前に屈出をなした破産債権者がある場合には、なお、これらの者全員の同意をも要するという見解がある。そして、後者の見解は、債権屈出期間経過後右異議申立期間経過前に屈出をなした破産債権者もまた同条第二項により破産廃止の申立につき異議申立権を有することをその根拠とするのである。

しかし、破産法第三四七条第一項の規定は、破産債権者の同意による破産廃止の要件を定めたものであつて、その同意を要する者の範囲を「債権屈出の期間内に屈出を為したる総破産債権者」と明定している。しかも、実質的に考えて、この範囲の破産債権者の同意があれば、破産宣告によつて一旦開始した破産手続をその目的を達しないままで、中止し、もつて、破産者を保護しても破産法ないし破産廃止制度の本来の精神に反するとはいえない。一方、同法第三五一条の規定は、債権屈出期間経過後同条第一項の定める異議申立期間経過前に屈出をなした破産債権者もまた同条第一項の異議申立権を有することを定めたに過ぎない。すなわち、右規定は、これらの破産債権者にも破産廃止の申立につきその要件を欠いている等の異議を申立てる機会を与えるを相当とするという見地から、単に異議申立権を与えたに過ぎず、同法第三四七条第一項の同意権までも与えたものではなく、その異議申立があつた場合には、同法第三五二条により、破産廃止の決定をなすに必要な条件が具備するか否かにつき、意見を聴取される効果を生ずるだけであつて(もつとも、これらの破産債権者も同法第一一二条により、破産廃止の決定に対しては即時抗告をなし得る。)、右異議申立権を有するからといつて、直ちに、破産廃止につき、これらの破産債権者の同意を得るを要すると断定することは妥当でない。もし、同意による破産廃止につき、これらの破産債権者の同意をも得ることを要するという見解に従うと、債権屈出期間内に屈出る熱意をもたず、しかも通常小数であるこれらの破産債権者の意思により、破産廃止が妨げられ、殊に、異議申立期間経過直前に屈出た破産債権者の同意までも得なければならないとすることは、その傾向を更に助長し、不測の困難を破産廃止申立権者たる破産者に強いる結果となり、同意による破産廃止制度の精神に反するものであるというべきである。

以上の次第であるから、破産債権者の同意による破産廃止においては、債権屈出期間内に屈出をした破産債権者全員の同意を要するだけで、右期間経過後破産法第三五一条第一項の定める異議申立期間経過前に屈出した破産債権者の同意は、これを要しないものであると解するを相当とする。従つて、債権屈出期間内に破産債権の屈出が全然なされない場合、又は、屈出があつたが全部取下げられた場合には、破産債権者の同意は不要となり、たとえ、右期間経過後異議申立期間経過前に屈出た破産債権者があつてもその同意を要しないで破産者は、適法に、破産廃止の申立をなし得るわけである。

本件についてみるに、記録によると、債権届出期間は当初昭和二七年一月七日までと定められたが、後に同年四月三〇日までと変更せられ、右期間内に破産債権の届出は、全然なかつたところ右期間経過後同年一一月四日に新潟県経済農業協同組合連合会(但し昭和三三年三月三一日石井武次郎及び島得一に対し破産債権を譲渡)、昭和二九年一月一九日に株式会社紀陽銀行、同年九月二二日に木村辰四郎からそれぞれ破産債権の届出がなされたことが認められる。そうすると、破産者たる抗告人は、前説示により、債権届出期間経過後異議申立期間経過前に届出た右破産債権者らの同意(又は、同意がない場合の担保提供)を要しないで、破産廃止の申立を適法になし得る筋合であつて、以上と異つた見解に立ち、抗告人の破産廃止の申立を不適法として却下した原決定は失当である。

よつて、原決定を取り消し、本件を原裁判所に差し戻すのを相当と認め、主文のとおり決定する。

昭和三八年四月三〇日

大阪高等裁判所第一〇民事部

裁判長裁判官 井 関 照 夫

裁判官 安 部   覚

裁判官 松 本 保 三

抗 告 理 由

昭和三八年二月一二日和歌山地方裁判所の決定理由の中に「よつて按ずるに、本件記録によれば、債権届出期間は最初昭和二七年一月七日と定められ、ついで右期間は同年四月三〇日に変更せられた右期間内には債権の届出はなかつたが、」とある如く、此の場合裁判所は届出期間中に債権の届出がないのだから破産者から破産廃止の申立のない時は当然裁判所は破産終結すべき義務あるにも係わらず荏苒放置したまま破産手続を継続したことは違法である。

破産終結をしない限りは爾後債権の届出は有効なることは勿論であるが、和歌山地方裁判所は破産法第三四七条によつて、破産廃止の申立は届出期間経過後の破産債権者の同意を要しないように一見解せられるのであるが、同法第三五一条第二項によつてその後の届出債権者たりと雖も破産廃止について、異議を申立てることができる旨規定していることから考えると、是等の債権者の同意も亦必要であると解するのが相当であるとの趣旨であるけれども、それは異議権と同意権と同一視した誤つた解釈である。異議を申立てる権利を有することを援用して同意の権限まで与えられるとする考え方は当らない。

破産法第三五一条第二項によると破産廃止の申立のあつた旨の公告があつた日から起算して二週間経過前に届出した破産債権者は破産廃止について異議を述べることが出来る旨規定してあるから異議権あるが故に破産廃止の同意の権利まであるかのように一見して解せられないことはないがこれは単に異議の申立のみを認められたものに過ぎないものでこれが逆つて同法第三四七条の一項に規定された届出期間経過後の債権届出者に及ぶものではないことは明文の表わす通りであつて極めて明瞭なことで何等顧慮の余地がない。

若し仮りにその解釈に従うと仮定すると破産廃止の範囲が無限に拡大されて破産廃止に非常な困難と混乱と時日の空費が著しく供い容易に解決出来ない結果となる破産法は急を要する特別な法律なるが故に茲に破産廃止に同意を要する債権者を届出期間内に届出た者に限るとされた法意によつても素人でも容易に判ることである。

にも係わらずこれを殊更に法文を無視して行われた決定には服することが出来ない。

申立債権者が債権届出期間内に届出を行なわないことを裏返して見ると本来第三者の詐欺破産罪に該当する不法行為によつてなされた事件なるが故に斯る不熱必な態度が露われて来るものであることに疑いない。

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